『モネ 連作の情景』(上野の森美術館)を訪れた時のことです。
教科書や画集で何度も見ているはずのモネ。
けれど実物は、それらとは比べものにならないほどのエネルギーを放っていました。
と同時に、実物のモネの絵とわたしとのあいだに、「ちょうどいい距離」というものが存在することに気づきました。
モネの絵は、その距離感によってまったく異なる表情を見せていたのでした。
例えば、うすく霧のかかった風景画は、ある距離から見ることで、その霧が遠近を際立たせ、奥行きを感じさせます。
また、近くで見える色の凹凸は、少し離れることで光が輝いているように見えます。
それはまるで、自分の記憶の中に入り込んだかのような体験でした。
その時ふわっと心に浮かんだのは、「白黒つけられない抽象の美しさは、人間の想いに似たものがある」ということでした。
日常では、写実やリアルにばかり意識が集まりがちです。
ですが、モネの絵の前で近づいたり離れたりしながら曖昧で不安定な光を探すように、私たちもまた、自分の中にある「見えない本質」との距離を、手探りではかっているのかもしれません。
こうした曖昧な美しさが、言葉にできない感情や記憶を呼び起こしているのだと思うのです。
モネの絵が持つ立体的な広がりや距離によって変わる表情のように、わたしも心に響くあらゆる振動を、「人生を前へ進めていく力」にしていきたいと思います。