木村伊兵衛の『パリ残像』
この写真集を眺めると、どこか深いところへ潜っていく感覚になる。
【木村伊兵衛(きむらいへい)】
戦後初めて日本人写真家としてヨーロッパへ。
当時、まだ一般的でなかったカラーフィルムでパリの街並みや日常を過ごす人を写真に収めた。
ときは1954−1955年パリ。
2023年の今になると、ここに写るパリ人の中には、すでに存在していない人もきっと少なくないだろう。
写真集の中を歩く老人や古きパリの街風景をみていると、この人たちのひとりひとりは、自分の人生の終わりをきちんと納得のいくように終えることができたのだろうか、とページをめくる指がピタッと止まる。
世界中には、交わることのないたくさんの命が存在していて、各々の生きる背景を目で追いながら必死に何かにしがみついて生きている。
小さな望みを見出して、楽しく生きることを心の置き場にして笑顔で暮らす。
いつの日も、時代を作るのは人。
思い出を残すのも人の中。
どれほどの人の想いが渦巻いているだろう過去の日常の履歴は、バトンを引き継ぐようにいまも途切れることなく続いている。
人間が存在する限り続いていくのだ。
この法則は間違いなく、今を生きる私たちの基盤となっている。
そして間違いなく私たちも、未来を生きる誰かの土台になっていく。
どんなに弱く、力がなくても、
細く存在感がうすくても、
自分が、
誰かの、何かの、足がかりになっていることを忘れない。
明日も前を向いて。