江國香織さんの書く小説は、日常そのもの。
ふつうにそこにある時間が、静かに綴られている。
登場人物の目線や、そこから想像できる心理、無理のない客観的なポジションに、いつの間にか自然と立てている読者視点が心地いい。
作中の人生や暮らしの背景が、抵抗なく見えてくる。
それはまるで
知りすぎていない隣人の、心の中のドラマをみているようだ。
深入りせずに見過ごせる他人の日常を。
それも、想像もつかないような他人ではなく、察することのできるすぐそこの隣人、
でも親しいわけではない隣人。
そんな絶妙な距離の「他人」が、ストーリーを運んでいく。
等身大とも異世界とも違う、
すぐそばにある他人の息づかいを感じさせる、
そんな、目に見えない「気配」を綴る彼女の文章に憧れが尽きない。